以上、狂言における因幡堂の位相を種々の角度から考えてみたわけだが、この寺院を舞台にした狂言が生まれた環境は、ある程度明らかになったかと思う。
要するに、因幡堂が、その縁起譚や薬師信仰とともに京都町衆に最も親しまれた町中の寺院であり、まさに門前市をなすかのごときにぎわいの中で、おそらくは狂言の上演も頻繁に行われたであろう。それが因幡堂素材の狂言を生み出す最大の要因だったのであろう。場合によっては、寺僧が狂言の制作に携わった可能性さえ考えられる。また、寺院側が意図するしないにかかわらず、結果としてこの寺の知名度を上げる宣伝の効果ももたらしたであろう。
ただし、因幡堂に深く係わった形跡のある大蔵流と、ほとんど関わりを持たなかったかに見える鷺流と、流儀による事情の際のあることも判明した。どうやら因幡堂素材の狂言は大蔵流の中で形成されたと見てよさそうである。
あとがき
この小論は、平成九年三月に勤務先の紀要(名古屋女子大学紀要・人文社会編・43号)に発表し、その後、学位論文に収録して、拙著『能・狂言の生成と展開に関する研究』(世界思想社・平成十五年)にも収めたものである。
近年、平等寺への参詣客が増え、狂言との関連について関心を持つ人も少なからずあると聞き、拙考が役に立つならと思って冊子化を試みた。
調査の際にお世話になった平等寺へ奉納し、恩に報るつもりで作成した。参話者各位の参考に供することができるなら望外の喜びである。
平成十八年十一月十一日
著者紹介
- 林 和利(はやし・かずとし)
- 1952年兵庫県篠山市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。現在、名古屋女子大学文学部・大学院教授。文学博士。
- 主著
- 「能・狂言の生成と展開に関する研究」(世界思想社)、
「日本文化論序説」(青山杜)ほか - 連絡先
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